東京高等裁判所 平成4年(う)397号 判決 1992年7月15日
本籍及び住居
千葉県印旛郡白井町平塚二四八七番地
農業
須藤利雄
昭和九年三月六日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成四年二月二七日千葉地方裁判所が言い渡した判決に対し、検察官から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官江川功出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から四年間、右懲役刑の執行を猶予する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は検察官甲斐中辰夫名義(検察官町田幸雄提出、同江川功陳述)の控訴趣意書に、これに対する答弁は弁護人高橋馨名義の答弁書にそれぞれ記載のとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、原判決が、懲役刑の併科刑として言い渡した罰金三〇〇〇万円の換刑処分として、金五〇〇〇円を一日に換算し、労役場留置期間が刑法一八条一項の許容限度である二年を超え、六〇〇〇日に達する換刑処分を言い渡したのは、法令の適用を誤ったものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。
そこで、右所論に鑑み検討するに、原判決は、原判示罪となるべき事実を認定した上、被告人を懲役一年二月(執行猶予四年)及び罰金三〇〇〇万円に処する旨の言渡しをしたが、右罰金の換刑処分として、「右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」との言渡しをしていることが明らかである。
しかし、刑法一八条一項によれば、罰金を完納することができない者に対する労役場留置の期間は二年以下と規定されているから(本件は一年分の所得税の逋脱一件のみの事案であり、同法一八条三項の適用はない。)、これを超え、計算上六〇〇〇日に達する労役場留置の期間を言い渡した原判決は、同法一八条一項の適用を誤ったものであり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、被告事件について更に判決する。
原判決記載の罪となるべき事実(但し、原判決二枚目表八行目「提出し、」の次に「そのまま法定納期限を徒過させ、」を付加する。)は、所得税法二三八条一項に該当するので、所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により同法二三八条二項を適用することとし、所定刑期及びその免れた所得税の額に相当する金額以下の範囲内で処断すべきところ、その脱税額が一億円を超え、逋脱率も五七・五パーセント余りに達していること、脱税の方法やその隠蔽手段が巧妙であることなどを考慮して、被告人を懲役一年二月及び罰金三〇〇〇万円に処し、刑法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとするが、被告人が本件脱税を冒したについては、被告人の所有する山林の売買をぜひとも成立させたいとする仲介人らの示唆と協力があったこと、逋脱した所得税本税及び重加算税の納付を完了したこと、前科はないこと、反省の態度がみられること等の情状を考慮し、同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から四年間、右懲役刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文により、これを全部被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 半谷恭一 裁判官 新田誠志 裁判官 浜井一夫)
平成四年(う)第三九七号
○ 控訴趣意書
所得税法違反
須藤利雄
右被告人に対する頭書被告事件につき、平成四年二月二七日千葉地方裁判所が言い渡した判決に対し、検察官から申し立てた控訴の理由は、左記のとおりである。
平成四年五月八日
千葉地方検察庁
検察庁検事 甲斐中辰夫
東京高等裁判所第一刑事部 殿
記
原判決には、法令の適用に誤りがあって、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。
すなわち、原判決は、控訴事実と同一の事実を認定した上、「被告人を懲役一年二月及び罰金三、〇〇〇万円に処する。この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。右罰金を完納することができないとは金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。訴訟費用は被告人の負担とする。」との判決を言い渡した(判決書・記録一八丁)が、これによると、被告人が右罰金を完納することができないときのいわゆる換刑処分としての労役場留置の期間は六、〇〇〇日となって二年を超えることが明らかである。
ところで、刑法一八条一項によれば、「罰金を完納すること能わざる者は一日以上二年以下の期間これを労役場に留置す」と規定されているのであるから、被告人が右罰金を完納することができないときは、二年を超える六、〇〇〇日間被告人を労役場に留置する旨右換刑処分の言い渡しをした原判決は、刑法一八条一項の適用を誤ったものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。
よって、原判決を破棄した上、更に適正な裁判を求めるため、本件控訴に及んだ次第である。